可愛い年下の君と



















「クスっ・・・景吾ったら・・・」

柔らかく心地よい笑い声とともに、額にちょんと触れる、しなやかな指先・・・




ドキン。と胸が躍る




『クソッ・・・』子供のように、逐一反応して、トキメク自分が悔しい。




「ん?どうかした?」

覗き込む深い蒼色の瞳。その中間に続く、すらりと通った鼻。その下の、艶やかにルージュを引いた唇。





「なっ・・・なんでもねぇ・・・」





『ちっ・・・』

そんなガキじゃねぇはずだ・・・俺は・・・

こいつより、年上の女を、弄んだことだってあったはずだ





「そっか・・・ふふっ・・・」




「なんだよ」




「やっぱ可愛いね。景吾って・・・」





『冗談じゃねぇっ』心の中で呟いて

「何言ってんだよ?はぁ?」と悪態をついてみる。





「好きだよ」





『じゃねぇだろ!』素っ頓狂な返事に、心の中で突っ込みを入れる

こいつはいつもそうだ

そうして俺のペースを乱し、俺の心を乱す。

そして最後に、俺の心を捉えて離さねぇ・・・




「ふんっ・・・」




「何?気に入らない?」




「お前が俺に惚れてるのは、気に入ってるけど、俺を可愛いなんざぬかすのは、気に入らねぇな」




「だって、可愛いんだもん。そんな可愛い景吾が好きなんだけどさ・・・それでもだめ?」




小首を傾げて俺を見るんじゃねぇっ!つーの。駄目だなんて言えるわけねぇだろ!

「好きにしろ」




「うん。そうする」

言葉を言い終えるとすぐ、細く白い腕が、跡部の首にまとわり付いてチュっと軽くキスが下ろされた。

跡部が目の前の痩身を抱き返す前に、それはさっと離れていく。




「俺で遊ぶな」ちょっぴり弄ばれたような気がして、拗ねたように言う跡部に




「そんな顔しないで?別に景吾で遊んでなんかいない。僕は僕のしたいようにしてるだけ・・・」




「だったら・・・」と跡部は、自室のソファに、並んで腰をかけていた不二を、さっと組敷いて、

獲物を捕らえた獣の目で、不二を見下ろしながら




「俺も俺のしたいようにするだけだ」と言った。




「ふふっ・・・いい目・・・ぞくっとする」うっとりしたように言う不二に




「無駄口たたけねぇようにして欲しいのか?」と跡部は不敵に微笑んで言った。




「そんな景吾も好き。支配欲に満ちた男の目・・・」そう言って不二は、跡部の頬に手を当てた。




「じゃぁ、お望みどおりにしてやる」

そう言って跡部は、自身の征服欲の赴くままに貪りながら、

不二の爪の先から、髪の毛の一本までも、愛しさを込めて不二を愛した。








くったりと脱力して、自分に身を任せる不二を腕に抱きながら、跡部は肌の感触と温もりに

湧き上がるような幸福を感じるのだった。










高等部に進んでから、テニスの試合のみならず、父の仕事や祖父のグループ企業の

企画に少しづつ顔を出すようになっていた跡部。

授業を休んでも、成績を維持できるようにと、密かに努力を続けていた息子のために、

母親が2年の時に連れてきた家庭教師が不二だった。




祖父の代からの、知人筋の子女だった不二は、聡明で落ち着きがあって、何より美しかった。

某難関大学に進学していた不二は、中学時代から、全国でトップレベルだったテニスの実力と、

優秀な成績を維持しながら、アルバイトをしたり充実した日々をすごしていた。



学内・・いや全国にファンは多く。女子からは憧れの的、男子からはアイドルのような存在だった。



不二の頭の良さと、つかみ所のない性格で、数多の男子は玉砕を余儀なくされていた。

不二に選ばれる相手は、不二を退屈させないだけの魅力と実力を持ち、彼女を自由に

泳がすことができる男。過去に付き合っていた面子は、そうそうたるものだった。






一方跡部は、大きな財閥の御曹司でありながら、テニスの実力は全国区。美貌と優れた頭脳で

幼い頃からトップとしてのカリスマ性を見につけていた。

けれど、どこかひねていて、上品ながらも横柄な態度と、はちゃめちゃな言葉遣いで

他の意味からも、同年代の生徒達から一目置かれていたのだった。

女に対しても年齢問わず、美しければとりあえずつまんでおこうといった感じだった。

けれども、今まで特定の彼女は作ることがなかったのは、彼を満足させるだけの

魅力ある女性がいなかったからと言えるだろう。













「はじめまして、じゃなくて久しぶりだね」

初めて不二が家庭教師としてやってきたとき、天使のような微笑と共に

言われた言葉に跡部は「ん?」と首を傾げた。



「幼稚園くらいの景吾くんと遊んであげたことがあるんだけどな・・・忘れちゃった?」



瞬間に、跡部の脳裏に、幼い頃から探し続けていた理想の人の少女時代の姿が、蘇っていった。




「年寄りじゃねぇんだから、それくらい覚えてる」

高鳴る心臓を抑えながら、平静を装って跡部は返事をした。



あの時、たった一度、一緒に遊んだだけだった少女を、

跡部はずっと、心のどこかで探していたのだ。

名前も聞くこともなかった、可憐で綺麗で聡明だったあの少女・・・・




「そっか。よかった。今度は遊びじゃなくて勉強だけど、よろしくね」

十年以上の時を経て、再び握った彼女の手の感触を、跡部は決して忘れることはなかった。







授業で会うたびに、不二に惹かれていく跡部は、もっと彼女を知りたくて得た、様々な不二の

情報を知るたびに、焦りを覚えるのだった。



自分よりも年上の彼女。当然自分よりも前を歩き、自分よりも多くのことを経験し、

自分よりも多くの知識を持っていた。



こっそり、不二の通う大学に、様子を見に行ったこともあった。

絶対的に自分に自身があった跡部だったが、不二の周りを囲む男子達のレベルの高さに、

悔しさが混みあがる。その中心で、華のように微笑む不二にも腹が立った。






独占欲


跡部の中の何かに火が付いたようだった。





それから跡部は、すべてのことに全力を注ぐようになった。

一日も早く、一歩でも不二の前を進めるように・・・・

そうしているうちに、自分を取り巻く女たちが、くだらないものに見えていった。

自然と跡部は身辺整理をしていく・・・

そんな彼の変化に、親友の忍足は驚きながらも、一途な跡部の一面を微笑ましくも感じたのだった。

ことあるごとに不二を誘い、不二と過ごす時間を増やしていく跡部。







征服欲


徐々に、このつかみ所のない人を、どうにかしたいと思うようになっていた。














「景吾は僕で遊んでる」不二を食事に誘った時、ふっと不二が口にした言葉



「はぁ?」



「狙った獲物を手に入れるまでの過程を楽しんでる」



不機嫌そうに、黙ったまま不二を見つめる跡部に



「ゲームは終わると飽きるんだよ。獲物はそのまま捨てられる」と不二はしらっと言った。



『そんなつもりはねぇよ!!バカにするな!!』心の中で叫んでから

「俺を、ほかのバカと、一緒に見るんじゃねぇよ」と静かに答えた。




「そぉ?」



「疑うんなら、自分で確かめてみろ」



「虎穴に入れって?」



「虎児を得ろよ」



「得て僕に、いいことがあるの?」



「退屈はしねぇぜ?」



「それは楽しそうだね」



「当たり前だ俺を侮るな」



「たいした自信だね」



「ふんっ・・・・」不敵に微笑む跡部は、いつになく、男っぽく大人のようだった。



「ふふっ」と微笑む不二のほうは、これ以上ないと言うほど、妖しく美しかった。









その日を境に、二人は男と女の付き合いを始めた。

後になって、二人を会わせたのは、跡部の母の強い意向が働いていたと知らされたのだが・・・






良家の子女のくせに、不二は人気のカフェでのバイトをやめず、相変わらずの生活を続けていた。

流石の跡部といえども、授業以外、そうやすやすと、デートさえもままならない日が多く続いた。

それでも二人で過ごせる日は、子猫のように甘えてきたり、ウサギのように寂しがる不二に

庇護欲をかられたり、奔放な不二が自分に傅く姿に、支配欲を満たされたりと、

充実した時間を過ごせていた。

少女のようなあどけなさと、娼婦のような妖艶さが共存する不二の魅力は、跡部の好奇心をいつまでも

刺激し続けていた。





跡部は、自分の言葉を実行するかのように、不二を決して退屈させることはなかった。

跡部財閥の御曹司・・・ただでさえ、普通の境遇ではないのだ。

いくら不二とはいえ、未体験ゾーンの世界に、退屈などするはずもなかった。








「なぁ、お前の大事な子には、まだ逢わせてもらわれへんの?」

部室で着替えながら、まだ跡部の付き合っている相手をはっきりと知らない忍足は、

ポロリと尋ねた。


「あぁ?」跡部は、忍足を一瞬睨んでから、何も応えずに着替えを続けた。



「けちぃ・・・見せてくれるだけええやんか」



「うぜぇぞ」



「せやけど見てみたいやん、ぶっちゃけ。あのよりどりみどり、とっかえひっかえやったお前が、

瞬間で身辺整理して、必死こいでゲットした人やろ?」




「テメーには関係ねぇよ」跡部が言い捨てたときだった。







「大変ですっ!!」息せき切って、鳳が部室へ飛び込んできた。



「どないしたん?」



「あぁ?」




振り向く二人に

「なんかコートに凄い美人が来てて・・・

それがどうも、インカレ女子一位の、T大の不二さんみたいなんですけど・・・・」



「え!!ほんまか?それ!!」跡部が応える前に、忍足が反応した。



「ちっ」と舌打ちすると、跡部はさっさとラケットを手に部室を飛び出した。



「え・・・・まさか・・・・」忍足は、狐にでもつままれたような顔をしながら

跡部の後を追った。







跡部がコートに付く頃には、黒山の人だかりができていて、その中心に薄い茶色の髪が見え隠れしていた。






「どけっ!」跡部の怒気を含んだ大きな声に、さっと道ができる。

その先に、綺麗に微笑を湛えた不二が立っていた。




「やぁ、景吾」いつもどおりの不二。



「何やってんだ」依然不機嫌オーラの跡部に



「何って、見にきたんだけど?」と、お構いなしな感じの不二の答えが続いた。



「だからどうしてだ?」



「別に、急にバイトが休みになってさ、時間が空いたからだよ」



さっと、忍足の方を向いて「俺は帰る・・・」と言いかけた跡部に



「見せてよ。景吾のテニス。その為に僕、来たんだけどな?」と不二が言った。



瞬間、石化した跡部だったが、観念したのか、黙って忍足を連れてコートに入って行った。

他のレギュラーたちは、会場の整備をする。部外者をフェンスの外に押し出し、

レギュラー以外の部員たちを、他のコートに追いやった。



跡部と忍足が軽い打ち合いをしているのを、コート脇のベンチに腰掛けた不二が

じっと見つめていた。







「お疲れ」

一汗かいてベンチに下がってきた跡部に、不二はさっとタオルを手渡してから、ドリンクを

次に渡した。

あまりの絵になるその風景に、女子生徒たちは、落胆のため息をつき、敗北感に苛まれたのだった。





「景吾らしいね。無駄がなくていいよ」不二は短く感想を言うと、忍足に

「ちょっと、ラケット借りていいかな?」と言った。


「え?」突然のことに、驚いたようにしている忍足に



「いい風が吹いてるから、ちょっと僕もやってみたくなったんだ」と可愛い笑顔で言った。



「あ・・・俺のでよかったらなんぼでも」忍足は、心奪われたように、さっとラケットを不二に差し出した。



「ありがとう、じゃ、景吾。僕はこっちサイド行くからさ、ちょっと相手してよ」

不二は、跡部の返事を待たずに、つかつかとコートに向かった。



女子学生界ナンバーワンの不二のテニスに、ギャラリーたちは色めきざわめいた。





軽い打ち合いからはじまったラリーだったが、試すような不二のショットに

徐々に跡部が、ヒートアップしていった。

鋭い球を、不二は得意のカウンターのツバメ返しで返球する。

次に放たれたスマッシュを羆落としで、ポイントを重ねていった。

噂の不二のカウンター技に、誰もが息を呑んで時を忘れていた。



『冗談じゃねぇ』高校テニス界でもトップクラスの実力を誇る跡部は

テニスまでも翻弄されていることに、僅かに焦りを感じていた。

そしてリターンを打ってすぐ、ネット際に詰め寄った。

不二が返した球は、軽く浮き上がって、絶好のロブと思われたが、跡部が

球に追いつく前に、それは着地をすると、そのまま、反対コートで、手を伸ばしている

不二の手のひらにすっぽり納まっていた。

まさに神業だった。

誰もが目にした現実を、受け止めるのに必死だった。







「お前・・・」呟く跡部に



「ありがとう。やっと完成したよ」と不二が答えた。



黙って不二を見つめている跡部の前に歩いていくと不二は

「最初に、景吾に見てもらえてよかったよ」と屈託なく微笑んで言った。





不二の微笑みに、跡部は大きく脱力すると、仕方ないなと苦笑いをした。








「金輪際にしてくれ」帰りの車の中で、跡部は隣の不二に呟いたのだった。


跡部の言いたいことを察していた不二は、苦笑いをしながらそれに頷いた。












そして、跡部の18歳の誕生日に、二人は婚約をした・・・











以後、たまに氷帝に現れては、周りに騒動を起こす、年上の許婚の横で、

制服姿で気まずそうな跡部の姿が、テニス部では名物になっていった。











「いい加減やめろよ・・・・バイト」

情事の後、身支度をする不二の背に、跡部は呆れたように言う。



「辞めるよ。今年いっぱいでね」不二は振り返りながら静かに言った。



意外な答えを聞いたと言わんばかりの跡部に


「年が明けたら、花嫁修業がはじまるんだって」と不二は参ったねと、苦笑いをした。



「そぉか・・・」



「いよいよだよ。覚悟はできてるの?」挑発的な言い方の不二に



「それはお前だろ」と跡部はムッとしたように答えた。



「退屈しないでいられるんだろ?」



「当然だ」



「だったら迷うことは何もないし」



『それだけかよ・・・』心の中で呟く跡部に



「それに何より、景吾のお嫁さんになれるんだからさ・・・これ以上の幸せはないよ」と不二が言った。







強がっている自分が、くじけそうになる一言に、

跡部は『また・・・やられちまった』と心の中で呟いてから

「楽しみにしとけよ」と言った。









きっと自分は、これから先・・・

一生かかっても、この彼女には敵わないだろう。

跡部はそう思った。

年齢や経験などではなく、

ぞっこん彼女に惚れてしまった弱みがあるから・・・








そして不二も、

決して跡部から離れることはできないだろうと、確信していた

意地っ張りでも、寂しがり屋の可愛い年下の男の子は、

何があっても、自分を守って愛してくれると

心の底から信じることができるから。

彼のために生き、

彼と共に時を過ごしていきたいと、

切に思うのだった。

























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