我が家の事情 越前家の場合
「帰ったよ」
「おかえり、リョーマ」
「ただいま、周」
結婚15年目の越前夫婦は、今も変わらず新婚気分が抜けないまま。
朝の見送りと、帰りのお迎えのキスは、子供達が見ていようがいまいが
関係なく日課とされていた。
「ったく・・・いつまでいちゃこいでんだよ」
ムッとした顔で下から二人を見上げているのは、今年小学校に入ったばかりの
次男の景吾だった。
「景吾、パパに『おかえりなさい』は?」
超絶美人の母、周が優しく景吾に声をかけた。
「・・・・・おかえり」
大好きな母に言われては、嫌とは言えず、景吾はしぶしぶ小さな声で言った。
「ただいま。景吾、学校はどうだったの?」
リョーマが景吾に尋ねた。
「別に・・・相変わらず女どもがうぜぇ」
小学生とは思えないくらいの、こまっしゃくれたガキではあったが、
母譲りの綺麗な顔立ちに、父に似た精悍さがあいまって、女子からはモテモテなのだ。
加えて、父は有名プロテニスプレイヤー、母は景吾の出産後引退したものの、
こちらも元プロテニスプレイヤー、しかも、絶世の美女でもあり、
現役時代からモデルもしていたのだ。今はたまに雑誌に出たりする傍ら、
写真家として活躍している。
「景吾はお父さんに似て、格好いいからね」
嬉しそうに周が景吾を抱きしめながら言う。
『冗談じゃねぇ・・・なんで、俺がこんなヤツに似てなきゃなんねぇんだ
俺は俺だ』
心の中でぼやきながらも、母の嬉しそうな顔に景吾は黙っていた。
母の腕の中で、心地よい温もりと香りに、景吾は蕩けそうになる。
『・・・にしてもよ、マジ、こいつ、最高・・・』心の中で呟いた景吾に
「ほんと可愛い・・・景吾。景吾の目の色はママに似たんだよね。
ママすっごく嬉しいんだよ」と周が景吾の目を覗き込むようにして言う。
至近距離で見る母は、まるで天使か女神のようで、景吾は心臓が飛び上がりそうに
ドキドキするのを抑えて
「そりゃぁ親子なんだからどっか似てるだろう」
と、わざとぶっきらぼうに答えるのだった。
そんな景吾の本心を知ってか知らずか、周は柔らかい微笑で景吾を愛しそうに見つめていた。
「どうでもいいけど、いい加減どうにかならない?その言葉遣い」
リョーマは、溜息混じりに景吾に言う。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群で文句の付け所のない息子なのだが、
如何せん言葉遣いが半端なく悪かった。
「うっせーよ。文句があるなら、じじいに言え」
面倒くさそうに言う景吾に
「景吾?おじいちゃんでしょ?」
周が小首をかしげながら優しく注意をした。
とそこへ
「おい、景吾!」
祖父の南次郎がやってきた。手にはラケットを持っている。
「なんだよじじい」
「ちょっと付き合え」
「またかよ、兄貴は?」
「あいつは机にかじりついたままだ、くそ面白くもねぇ、行くぞ」
「ったく・・・しゃねぇな・・」
最近テニスの腕が上達し始めた景吾は、祖父の南次郎と手合わせするのが楽しかった。
通っているテニススクールでは、既に同じクラスに敵はなく、なんとなく物足りない
思いをしていたから、なんだかんだ言いながらも、毎日祖父の相手をするのだった。
三人の前を通り、草履をつっかけた南次郎はクルリと振り返り、
「それにして周ちゃんのエプロン姿はたまんねぇな・・・」
と、鼻の下を伸ばしながら周を見て呟いた。
「このくそオヤジ・・・」とリョーマはムッとしながら、二人の間に割って入って言う。
「何だよ」
とにらみ合う二人の間に入って周は「はいはい。もうすぐお夕飯だから、あまり遅くならないようにね」
と言った。
「ったく・・・」リョーマは呟きながら、周の腰に手を回してぐっと引き寄せ、部屋へと向かった。
「で?あいつは部屋で勉強?」
「うん、明日から試験らしいんだ」
「そっか」
「お風呂先に行く?」
と聞く周に
「どうしよっかな・・」
と呟きながら、リョーマはぎゅっと周を抱きしめてキスをした。
「んっ・・・」
部屋の前の廊下での急なことに、周は戸惑うよう。
「はぁん・・もぉ・・駄目」
「いいじゃん、誰も見てないよ」
「だって、お夕飯の支度途中だし」
「ちょっとくらいいいよ」
廊下で二人がじゃれ合っていると
「ここは廊下です。いちゃつくなら、部屋へ行ってからにしてください」と声がする。
はっと二人が振り向くと、そこに立っていたのは長男の国光だった。
「国光・・・お勉強は?もういいの?」
少し上気して潤んだ瞳で言う周に、これまた極度のマザコンの国光はドキリとしながら
「・・・一段落つきましたから」と答えた。
「そっか。偉いね。国光は・・・」そう言って周は国光をぎゅっと抱きしめた。
「うわっ・・・」
「いつも感心してるんだ」
むぎゅむぎゅと抱きしめられ、国光もこれまた景吾同様瞬殺されるのだった。
長男国光は中学生、もちろん父譲りのセンスでテニスの腕は全国区。学業も優秀で
生徒会長も努めるほどの人望もある。
これまた容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群なのだが、同じ兄弟でも景吾とは全くの
正反対の性格で、堅いくらいに理性の塊のような礼儀正しい優等生だった。
「かっ・・・かぁさんっ・・」
国光が顔を赤くして周に訴えた。
「どうしたの?」周はキョトンとすると
「くっ・・苦しいんですが・・・」
と、眼鏡が歪んだ顔で、国光が言った。
「あ・・・ごめん。国光・・大丈夫?」
心配そうに覗き込む周の顔に、これまた心臓をバクバクさせながら国光は
「だっ・・大丈夫です・・・」と答えた。
「もうすぐお夕飯だから、景吾たちにあと30分くらいしたら帰って来てって
言ってきてくれないかな?」
という周に
「はい・・・」と返事をして眼鏡を直しながら、国光は玄関へと向かって行った。
『二人ともまだまだだね・・・』
リョーマは、息子達を見ながら勝ち誇ったように満足げに微笑むのだった。
「どうしたの?リョーマ」
そんなリョーマを覗き込んで言う周に
「なんでもないよ」とリョーマは答えてからさっと周を抱き上げて
「国光も言ってたし、続き、部屋でしよっか」
と言った。
「えっ・・・だって」
「夕飯の支度だろ?いいよ、早く済ませるから」
「やっ・・・そんな問題じゃない・・・」
抵抗虚しく、そのまま部屋に連れ込まれ、周はふらつく足で夕飯の用意をする羽目になっただった。
「なんだ?今日のおかず、言ってたのより一品少ないんじゃねぇの?」
テーブルの上を見ながら呟く景吾に
「文句はパパに言ってね」
と答える周を見て
国光と南次郎が、深い溜息をついたのはいうまでもない・・・・
夫 越前リョーマ 35歳
妻 周 37歳
今日もラブラブバカ夫婦
そんな一家のとある日でした・・・
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