変わらぬ想い-5-
「良かったのか?帰国早々、寄り道なんかしてよ・・・」
ソファに座る不二にコーヒーの入ったカップを手渡しながら跡部が言った。
「うん、さっきの返事で、『久しぶりだからゆっくりしてきていい』って
母さんが・・・」
「そっか・・・」
そう言って跡部が隣に腰をかけた
「ほんと・・・久しぶり・・」
「あぁ・・・」
「怒ってる?」
「あ?」
「連絡しなかったこと・・・」
「さぁな・・・」
「くじけそうだったから・・・」
「ん?」
「結構ね・・・きつかったんだ・・・いろいろと。景吾に連絡して、
景吾の声聞いたら元気が出るどころか、崩れちゃいそうだったから
だから・・・・・・・・でも・・・・ごめんね」
「いや・・・どうせそんなことだろうと思ってたからよ・・・
俺も・・・下手に動けなかった・・・」
「ありがとう・・」フッと微笑んで不二はカップに口をつけた。
「手塚のヤローはどうしたんだ?」
「あ。手塚は残ったよ。プロを目指すなら早いほうがいいって」
「そっか・・・」
「きっとなれるよ。手塚なら・・・」
「お前はどうなんだよ。そこそこやってたんだろ?一緒に残らなくて
よかったのかよ。しかも戻ってきたのが氷帝ってよ・・」
3年の大会の後、怪我を克服した手塚はプロを目指す為の腕試しということで
顧問からの薦めもあって、アメリカへの留学を決めていた。
そしてその手塚と一緒にどうか?と推薦されたのが他でもない不二だった。
不二は実力的には女子の中でもトップクラスだったため、当然と言えば当然だったのだが、
手塚としては少なからず好意を抱いていた不二と一緒により高いところを目指すのは
願ってもないことで、一緒に行こうと随分説得をしたのだった。
あまり物事に固執しない不二はそこまで。。。と思ってはいたが、
手塚のプレイには魅力を感じていたし、噂を聞きつけていたかつてのクラブの仲間が
是非くるようにのコールに、どうしたものかと思案していた。
「行って来いよ、もっと強くなって帰って来い。人生のチャンスを自分の手で潰すような
ケチな人間でもねぇだろ?」という跡部の言葉に背中を押され、
再び不二が旅立ったのが一年前の事だった。
手塚の不二への気持ちを知ってはいたし、不二が手塚のテニスに憧れているのも分かっていた。
不二のテニスの実力もよくわかっていた跡部は、これがいい機会になって、何が不二にとって
一番いいことになるか分かるだろうと思い、あえて反対はしなかった。
その結果、不二が自分の元に戻ってこなくなってしまうとしても・・・
「ちっ・・・俺を2度も待たせるなんざ。いい度胸してやがるぜ・・」
不二を乗せた飛行機を見上げながら跡部が呟いた一言・・・
「迷惑だった?」恐る恐る不二が聞く
「アーン?何がだ」
「僕が日本に戻ってきて・・・氷帝に行って」
「それ、俺の質問の答えになってねぇって・・・」
「1年間だって・・・だから頑張れたんだ・・・1年頑張って景吾が言ってたみたいに
強くなって。それで、景吾のとこに戻るんだって・・・がむしゃらに頑張ったよ
どんなことも乗り越えてきた・・・景吾のこと思い出しながら・・・」
ポタポタと俯く不二から涙の雫が零れ落ちた。
「手塚は・・・・よかったのかよ・・・」いつになく弱気に跡部がライバルの名を口にした
「ちゃんと・・・ちゃんと話してきたから・・・手塚には・・・」
「何を?」
「一緒にプロになろうって・・・向こう(アメリカ)で暮らそうって言われたけど・・・
僕には景吾しかいないって、景吾との未来しか考えられないって・・・
ちゃんと話てきから・・・」
「周・・・お前・・」
「ねぇ・・迷惑だった?待っててくれるって思ってたのは僕だけだったの?
景吾と一緒にいたいって、景吾じゃなきゃだめだって・・・
そう思ってたのは僕だけだったの?」
泣き叫ぶように、訴えるように言う不二を跡部は力強く抱きしめて
「俺は伊達に2度も待ってた訳じゃねぇ・・」
と優しく耳元で呟いた。
「景吾・・・・・ほんと?」
「あぁ・・・ったく、一年も音沙汰なしによ・・・この跡部景吾を待たせるなんざ
常識じゃ考えられねぇことだ」
クイッと不二の顎を上げ、涙に潤んだ綺麗な深い蒼い瞳をみつめながら言った。
「ごめんなさい・・」
「しょーがねぇ・・俺もな・・・惚れた弱みだからよ・・・」
いつも自分が言う我侭で振り回してきた跡部の優しい瞳に、不二は胸が苦しくなった。
大好きで大好きで跡部以外の男の人なんて考えらなかったのに、
憎まれ口をきいたりしていた子供だった自分。
けれど、そんな自分にいつも跡部は困った時には、ちゃんと手を差し伸べて救って
そして、守ってくれてきた。
甘えっぱなしだった自分が跡部のところから離れて1年という時間を
厳しい世界に身をおいて過ごすことで思い知った彼の存在。
どれほど、彼の思いやりに包まれて、慈しまれてきたか痛感した日々・・・
逢いたくて声が聞きたくて恋しくて、胸がはりさけそうだった日々を過ごしながら、
もしかして、戻っても跡部にはすでに、好きな人が出来ているかもしれない、
勝手にこっちへきたのは自分だから。。という不安とも戦った。
手塚とはいい仲間として、厳しい練習の日々を支えあったが、決してそれ以上の感情を持つことはなく、
心に思い浮かべるのは、いつも跡部一人だった。
「景吾・・・愛してる・・・」
いろんなことが頭の中を駆け巡る中、子供ではない、一人の成長した女として、
不二は、跡部に自分の想いを告げた。
「あぁ・・俺も・・・ずっとお前が好きだった・・・」
不二から漂う大人の雰囲気に、ドキリとしながら跡部が答えた。
「ほんとに?」跡部の首に両手を回し小首をかしげながら言う不二に
「あぁ・・・、とっくの昔っからな・・・」そう言って跡部は口付けをした。
「んっ・・」甘く零れる不二の声・・
「周・・・」優しく呟く跡部
「ねぇ・・景吾」
「何だ?」
「・・・・貰ってくれるかな?」
「ん?」
「僕の・・・初めてを・・・」
頬を染めながら恥ずかしそうに言う不二が、跡部はたまらなく愛しくて・・・
ぎゅっと抱きしめた。
「僕の・・最初で最後の人になって欲しい・・・景吾・・・」
「周・・・いいのか・・・?」不二の想いの重さを知る跡部には、そう言うのが精一杯だった。
「僕の全部を景吾に貰って欲しい」そう言って不二は跡部にしがみついた。
跡部は黙って不二を抱きかかえると、部屋の奥のベッドに向かった。
不二は、跡部の首に腕を回して、ぎゅっとしがみついた。
緊張からか、腕の中で僅かに震える不二がたまらなく愛しくて、心から大切にしたいと思った。
そして、辿りつた跡部は、ベッドにゆっくりと、不二を下ろした。
チュっと、優しく口付けをしてから、真剣な顔で、不二をじっと見つめて、
「お前の全てを貰う代わりに、俺の全部をお前にくれてやる」
幸せそうに微笑んでから瞳をそっと閉じた不二に、再び、跡部がゆっくりと口付けをおろしていった・・・
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