変わらぬ想い-4-
「送っていくぜ」と言う跡部の左腕をぎゅっと掴んだまま俯いて何も云わずに
小さく震えている不二を見て、跡部は「ふっ」と小さな溜息の後、
「ちょっとだけ寄ってくか?おれんち」と言った
俯いたままの不二は小さく頭を縦に振った。
大きな黒塗りの高級外車の広い後部座席で、
寛いだ様子で背を預けている跡部のすぐ傍で、不二は小さくなって俯いていた。
こんなにしおらしく、儚げな不二を見たことを、ほとんど数えるほどしかなかった跡部は、
どう声を掛けたらいいものか、柄にもなく思案してしまうのだった。
再会を喜ぶ言葉や、優しく包み込むような台詞の一つも口にできないまま、
ただ、流れる車窓からの風景を見つめながら、自分達の幼かったころのことを思い出していた。
家同士がご近所だったことから、跡部と不二はいつも一緒に過ごしていた。
一つ年下のやんちゃな弟の影響もあってか、不二は自分のことを「僕」と言う事以外は
10才年上の姉のせいか立ち居振る舞いといい仕草といい幼い頃から大人っぽく、
綺麗な子供だった。
跡部のほうは、大きな財閥の御曹司で、そのせいかどうかは定かでないが、
物心ついたころから天下無敵の俺様な性格。
何をやらせても卒なく、スバ抜けたセンスの良さを遺憾なく発揮し、
常にトップに立ち、人を惹きつけてやまないカリスマ性を持っていた。
おっとりしていながらも、何事も器用にこなし、容姿端麗で、頭と性格のいい不二と
性格はさておき、これまた頭脳明晰で超絶美形、何をやっても常にトップクラスの跡部は
どこへ行ってもいつも注目の的だった。
跡部のぶっきらぼうな俺様口調も横柄な態度も跡部を知り尽くしている不二にはごくごく自然なことだったし、
跡部も予想不能な突拍子もない不二にペースを乱されつつもそんな不二を守るように
いつも傍にいたし、不二も跡部の後ろを着いて回っていた。
小学校の5年生の時、パパっ子だった不二は父がアメリカへ赴任する時に
「一人じゃ可哀想だから・・・」と一緒に行くことを決めた。
跡部の傍を離れるのは辛かったが、悩んだ末のことだった。
不二の気持ちがよく分かっていた跡部は何も言わずにその背を押した
「僕が帰って来るまで待っててね、僕が好きなのは景吾だけなんだから」
そういう不二に
「あぁ・・」と跡部は言葉少なに答えた
「景吾・・・モテるから。。。」ポロポロと涙を落とす不二に
「ったく・・・テメーで決めたことだろ?だったら泣くな」
と跡部は優しく言って
「しょーがねぇな。。。」と呟いてからそっとキスをした
「景吾・・」
「泣き虫直さねぇと向こう行ってもいじめられんだろ?
俺は傍にいねぇんだからな・・・」とつっけんどうに言ってから
「俺のファーストキスだ・・・ありがたく思え」と小さな声で言った
「ん・・・僕も・・だよ。だから、景吾もね・・」
涙を拭いながら言う不二に
「あぁ・・・ありがたく貰っといてやるよ」と跡部が微笑んで言った
それから2年後、父の単身赴任が長引きそうなこともあって、
不二は小学校卒業を機に、一人、帰国することにした。
弟の裕太も大きくなって、由美子達と留守番もできるから、母の淑子が
定期的に父の元へ行ける様になることもあったからだ。
当然、跡部の通う学校へ行くつもりだったのだが、帰国子女枠のからみで
それが叶わず、家も近いこともあって青学に行くことになった
跡部は氷帝学園ですっかり頭角を見せて、1年生ながら副部長を勤め、次期部長にも
決まっていた。名実共に学園トップに君臨していた。
よりによって不二がそのライバル校である青学に行くことになるとは。。。跡部の
心境は複雑だった。。。ま、救いといえば、男テニと女テニということだった。
不二はアメリカで、クラブチームに所属して、テニスを続けていた。
器用な不二のプレイはその柔らかで幼い表情からは想像もつかないような
鋭いもので、クラブ内でも「天才」と呼ばれ、期待を集めていたため、
帰国の際にはコーチや仲間に酷く惜しがられたのだった。
学校が違う為に、スケジュールも全く異なり、ゆっくり逢う時間もとれないまま
悪戯に時間だけが過ぎて行った
試合会場で出会っても、跡部の周りはどっと女子生徒たちが取り巻いているし、
不二は不二で菊丸達、青学のメンバーに囲まれている状態で、
お互いのそんな状況を見て、気分を悪くするだけだった。
「相変わらずモテるね。景吾」
「アーン?そりゃそっちだろ?周」
「景吾と一緒にしないでよね。失礼しちゃうよ」
「うっせーな。」
「はいはい・・・お邪魔さま」
そんな可愛くない会話ばかりが続いていた。
ところが、2年のある日、跡部が忍足達と学校から帰ってくる途中、
「あれ?あれ、青学の不二とちゃう?」忍足が傍の公園の中ほどにあるベンチを指差して言った
「ん・・?あ・・」ベンチで一人佇む薄茶色の髪を見て、その普通ではないと思われる
雰囲気に、跡部は
「わりぃ・・・今日。パス」と忍足たちに言った
「なんや・・」と言いかけた忍足はやけに真剣な顔をして不二の元へ駆け寄る跡部を
見て、「幼馴染とか言うて・・・なんやかんや言うても保護者やん・・・」
と苦笑いをしながら言った
「何シケた面してんだよ」
そういいながら跡部は不二の隣に腰を下ろした
「あ・・・景吾。」
と言って跡部をチラリと見て、不二はまた俯いて黙り込んだ
「裕太のことかよ」
1才年下の不二の弟の裕太が青学に進学してからしばらくして全寮制の聖ルドルフ学園に
転校したと言う噂を聞いていた跡部はきっとそれが原因だろうと思い、不二に言った
「うん・・・今日ね。行っちゃったよ。裕太」
「で?寂しくって泣いてんのかよ」
「ん・・・気持ちの整理・・・かな・・・」
「へぇ〜、お前がねぇ・・」
「景吾さ・・・僕を何だと思ってんの?」
「世の中で唯一俺にたてつくムカつく女」そう言ってニヤリと不二を見た
「ぷっ。。。何?それ・・・ムカつく」そう言う不二もニヤリと笑って跡部を見た
「シケた面よりそうしやってるほうが似合ってるぜ」前の方を見たまま跡部がポツリと呟くように言った
「景吾・・・」
「ったくよ、お前さ。自分は発作みてぇに思いたったらすぐでアメリカ行っちまってよ
戻ってきたらきたで青学なんかに行くくせに、裕太のそういうのはショックなわけかよ?」
「ほんとだね・・・っていうか、僕が女テニで練習するより男テニで練習するほうが
多かったから、裕太は息苦しかったみたいで、悪かったなぁて。。。」
「くだらねぇ・・・裕太もまだまだガキだな」呆れたように跡部が言う
「そういわないでよ。。。結構堪えてるんだから・・」
「らしくねぇぞ、
『唯一俺にたてつく女のくせに』」
二人は同時に言った
「ぷっ・・・」不二が噴出す
「ふっ・・」跡部も笑った
「だまって見守ってやれよ、裕太が大人になるのをさ・・」
「うん・・・そうだね。僕も負けないように頑張るよ」
「あぁ。。。」
「やっぱり景吾だね」
「はぁ?」
「僕を助けてくれるのって・・」
「今頃気づいたのか・・・・相変わらずボケてんのな」
「もぉ・・・」
そんなことがあってからか、不二は機会あるごとに跡部や忍足達、氷帝のレギュラーの
校外での練習に参加するようになった。
男子顔負けの不二のプレイに皆も舌を巻く。
同じようなプレイスタイルの忍足とはよく話も合った。
青学女子テニス部は団体では成績は振るわなかったものの、一人目をみはる活躍を
見せる不二はすっかり全国区になっていた。
相変わらず跡部の周りは親衛隊やなんや取り巻く女生徒が取り囲んでいたし、
不二は不二で青学のメンバーと一緒にいて、中でも実力ナンバーワンの手塚とは
似合いのカップルと勝手に祀り上げられていた
「相変わらずお盛んだね・・」
「そっちもな」
「明日、応援に来てよ」
「勝つんならな」
「誰に言ってるの?」
「はいはい・・・明日な」
可愛くなかった会話も微妙に変わっていったのだった・・
それからもいろいろあった・・・・
と、跡部はふっと不二を見た。
黙ったまま、申し訳なさそうにしている不二に
「連絡入れとけ・・・」と跡部は言った
「うん」
不二は携帯を取り出し、母親にメールを送った。
そして、返事を見て、顔を上げたところで、車は跡部家の敷地へと入っていったのだった。
ブラウザの「戻る」でbackしてください