我が家の事情-跡部家の場合-



















「おい」

「おかえりっ。景吾!」

「あぁ・・・」





結婚15年目の跡部夫婦は、今も変わらず新婚気分が抜けないまま。

朝の見送りと、帰りのお迎えのキスは、子供達が見ていようがいまいが

関係なく日課とされていた。













「んっ・・・」

ぐっと腕に抱きしめられて、絶妙のキステクに翻弄されて、身じろいでいた周の身体からは

力が抜けていく。



いつもながらの濃厚なキスに酔う妻と、妻をそんなふうにしてしまう自分自身に酔う夫。



「・・・景吾・・・今日もお疲れさま・・・」

ぎゅっと跡部の胸にしがみつきながら、周は上気した頬、潤んだ瞳を向けて跡部に一日の労いの言葉を継げるのだった。















「はいはい、もぉええで。ラブラブなんはよぉ分かったから」と、いつまでたっても終わりそうにない二人に、

突っ込みを入れに長男の侑士がやってきた。



「毎日、毎日ほんまになぁ・・・」呆れたように言う侑士と景吾の目が合う。









『エロ親父が・・・周はあんただけのもんちゃうっちゅーーねん』


『クソガキのくせしやがって、邪魔すンじゃねぇっつーの』



飛び散る火花と暗黙のやり取り・・・











と、横から周がほんわりとした笑顔をして「すぐお夕飯だから、景吾は先にお風呂済ませてきてね」と言った。



「あぁ」


「じゃぁ、侑士、手伝ってね」


「ええで〜。まかしとき〜」



さっと、侑士が周の腰に手を回して引き寄せて、にこやかに答えると







ドスッ







鈍い音が響く







バタッ







倒れる大きな塊









きゃーーー







上がる悲鳴















『またか・・・・』

その声を聞きつけて、奥から次男がやってきた。





「おかえりなさい。父さん」



「あぁ・・・・そこの粗大ごみ、どっかにやっとけ」

跡部は、次男の長太郎に言った。



「け・・・景吾っ!」

慌てて跡部と侑士の間でオロオロする周に



「他の男に触られてんじゃねぇよ!」と跡部が怒鳴った。



「他の男って・・・・自分たちの子供だろ!」



「ガキだろうが何だろうが男は男だ!」



「そんなぁ・・・」途方にくれたように周は呟いた。











「大丈夫?兄さん」もぉ・・・いつもいつもと、呆れたように覗きこむ長太郎に助けられて

立ち上がった侑士は父に向かって



「だぁーーーーもぉーーーーーいったいなぁ!!」死ぬか思たわ!!と大きな声でいった。



「そのまま逝っとけ」ふんと笑う跡部



「自分のおかんとスキンシップして何が悪いんや!!独裁エロ親父!」



「ンだとぉーーーーテメー、人が手加減してやってんのにいい気になりやがって」



「うるさいわい!自分の子供に本気で踵落し食らわしといて何が加減や!!」



「テメーいっぺん殺す!」



「上等やないか!この虐待親父!返り討ちにあわしたるわ!」



「うるせぇ!ここの躾のやり方が嫌ならとっとと荷物まとめてでていきやがれ!この極つぶしが!」















『あぁ・・・毎日毎日・・・・』

間で二人のやり取りを見守りながら、長太郎はもはや諦めの境地だった。だた、オロオロする母が不憫で・・・



「母さん。夕食の準備でもしよう?」あの二人まってたら夜が明けちゃうよと長太郎は言った。



「大丈夫かな・・・」



「いつものことだし、僕も手伝うからね」



「うん。そうだね。ありがとう」



そして二人は台所に消えていった。













「・・・・・おい」



「・・・・え?」



姿の消えた二人を追うように跡部と侑士はダイニングへとやってきた。

カウンターの向こうのキッチンでは、長太郎と周が仲良く楽しそうに、夕食の用意をしてるのが見える。





「ったく・・・」跡部は眩暈を覚え



「やられた・・・」わっちゃぁ・・と侑士は頭を抱えた















「テメーがくだらねぇことやるから・・・」



「何言うとるねん、言いがかりもええとこやわ」



「だいたいなんなんだよ、その腐れ関西弁!」



「しゃーないやろ!!!俺がガキのとき、あんたの都合でずっと関西におったんやから!! 

 好きでこないなったんちゃうわ!!元はといえばあんたのせいやろ!」



「長太郎はフツーだろーが!」



「あいつはまだ言葉覚える前にこっちに帰ってきたからや!!」



「男の癖に言い訳するな!」



「大人のくせにむちゃくちゃ言いなっ!!」

















「びぇ〜〜〜〜〜〜ん」





と、隣のリビングから子供の泣き声











「あ・・・ジロー・・・」と長太郎が苦笑いをする



「あ・・・もぉ・・・」呟いて周がキッチンを出ると



ヒックヒックといいながら、三男ジローがヨチヨチと歩いてきたのだった。







「ジローっ」

不二が慌てて駆け寄ってジローを抱き上げる。



「ママぁ・・・・」



「ごめんね・・・お目々覚めちゃった?」



「ん・・・」



















「・・・せやからな!」



「ンだとぉ?!」



そんなやり取りにまったく気がつかず、相変わらず遣り合っている二人・・・・















『あーぁ・・・。二人とも・・・』と長太郎が心で呟いたときだった。



















「二人とも、いい加減にしなっ!!」















ジローをだっこした周が、絶対零度の凍てつく視線をむけながら、夫と長男に向かって大きな声で言った。













「「やばっ」」









「俺、風呂」そう言って跡部は逃げるように風呂へ向かう。



「おっ・・・長太郎、手伝うわ」と侑士はキッチンへ逃げていく。













「まったく・・・困ったパパ達だね」



ママの腕に抱かれて落ち着いたのか、ジローはまた気持ちよさそうにねんねを始める。

背を優しくなでながら、周は愛しそうにそんな三男を見つめていた。



















食事を終えて、それぞれの部屋に向かう時、侑士がリビングに寄ってジローをそっと抱き上げた。



「え?侑士・・・」ジローは僕が連れて行くよと言う周に



「いや、今日は俺が見るわ・・・途中で起こしてしもてかわいそうなことしたよって」



「いいの?」



「ん、ええよ」



「じゃ、お願いね」



「あぁ。任せといて」











寝付き際に起こされた日は、弟がたまに夜鳴きをすることを侑士は覚えていて、そんな弟を寝かしつけるために

ゆっくり眠ることができない母を思ってのことだった。







ま、それが母にとって本当に安眠をえられることになるのかどうかは定かではないが・・・











「ンだ・・あいつ」長男を見直したように跡部が呟く



「ふふっ。だって景吾と僕の子供達だもの」と周が幸せそうに微笑んだ



「まぁな・・」

















そしてその夜、二人っきりの寝室で周は三男の代わりに散々自分が啼かされることになるのだった。

















『兄さんももう一ひねり考えないとね・・・』

もしかしたら、この一家で一番思慮深いのは、そう呟いた次男の長太郎なのかもしれない・・・・















夫 跡部景吾  35歳

妻    周  35歳



今日もラブラブバカ夫婦

そんな一家のとある日でした・・・






















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