我が家の事情 千石家の場合






















「帰ったよぉー」

「おかえり。清純」

「ただいま、周」




結婚15年目の千石夫婦は、今も変わらず新婚気分が抜けないまま。

朝の見送りと、帰りのお迎えのキスは、子供達が見ていようがいまいが、

関係なく日課とされていた。







「いい年こいで、いちゃついでんじゃねぇよ!」

今年中学生になったばかりの次男の仁が、ムッとした顔で二人に言った。



「なんだよ、仁ってばさ・・・ドキドキしちゃった?」

清純がニヤリと、不敵な笑みを浮かべて仁を見た。



「んなわけねぇだろ!・・・ったく・・・」







「いい年って・・・やっぱり、僕もう・・・」

シュンとして、俯いて呟く周を見て、清純も仁も慌てて



「「周は違う!!」」と大慌てで否定する。



「ほんと?」



「ほんと!」

「マジだって!」



「ほんとに?」



「ほんとにほんと」

「マジ、大マジ」



大きな体を小さく屈め、周を宥めるような体勢を取る二人の男。

しばしの沈黙の後、その二人をじっと見ていた美しき女神は、ようやくほっとしたように小さく息をついた。

そして、花も綻ぶような笑みをして、ほっとしたように微笑んだ。





「心配しなくてもいいよ、母さんは実年齢よりも、軽く10歳は若く見えるから」

奥からノートを手にした長男、貞治が言いながらやってきた。



「10歳なんて・・・それは厚かましすぎるよ」恥ずかしそうに言う周に



「実際そうだよ・・・・な?仁」と貞治が弟に向かって言った。



「あぁ・・・」

入学式や懇談会だと、周と二人で歩いているところを目撃された仁は後日、周を知らない連れから

いつも年上の彼女と、ひやかされていたのだった。

正直、重度のマザコンである仁は、大好きな母とそう言われるのは嫌ではなかった。



そしてそれは、兄の貞治にしても同じことだった。








学生テニスの、女子チャンピオンだった周は、二十歳の誕生日に清純と結婚し、卒業後は写真家として

活動しながら、家事に勤しんでいた。

モデルの話も舞い込んでくるほどの容姿と、だれからも好かれる器量の持ち主で、千石一家の男連中にとっては

大事な大事な『自慢の娘』みたいなものだった。









「それにしても、今日は仕事早かったんだね」

公認会計士として、大きな事務所を運営してる清純は、抱えているクライアントのグレードも

数も半端ではなかった。



「うん、今日はさ、すっごいラッキーが続いてね、なんか交渉がトントン拍子に進んだんだよ」



「そっか。よっかったね」



「お前、ラッキーだけで生きてンだもんな」



「仁?お前じゃなくて『パパ』だよ・・・ね?」



「うぅ・・」



「仁の口の悪いのは筋金入りだからね」貞治が笑った



「ママにはすっごく優しいのに・・・」

仁の手を握って、上目遣いに困ったような顔をしながら言う周の可愛らしさに、

三人は立ちすくんだ。



年子で成長盛りの息子二人は、中学に上がり身長もぐんと伸びて、既にその背の高さは

両親を越えていた。

いつも沈着冷静で頭脳派の貞治と、やんちゃな仁が、親に対して反抗期なくやってきたのは、

ひとえに、周の可愛らしさと天然さの賜物と言えるのかもしれない・・・








『かっ・・・可愛いじゃねぇか・・・こいつ』と仁


『仁だけずるい、今夜はオシオキだね、周・・・』と清純


『やはりこの人は、我が家の最終兵器だね。それに、二人ともいい顔してるよ、

面白いデータが取れそうだ』と貞治








マドンナである母を巡って、いつもの暗黙の駆け引き(?)というか攻防。









その後、久しぶりに早く帰ってきた清純のお陰で、人数が揃ったからと、

夕食とお風呂の後、家族で麻雀大会が行われた。



小遣い稼ぎにと力の入る仁、

ラッキーで着々と稼ぐ清純、

データできっちり上がっていく貞治

可愛らしさで決してフリコミさせない周



そして・・・・

負けたものを待ち受けるのは



長男貞治特製の『青酢』だった。







結局、味見がしたい周が最下位となり、満足そうに青酢を飲み干すのを、

清純と仁が信じられないと言った顔で見つめたのだった。





仁の粘りも清純のラッキーをも凌いで勝った貞治に

「ったく・・・・テメーの、その腐れノートには何が書いてあるんだ?」

と仁が文句を言うと、周が横から

「魔法のノートだよ。びっくりするくらいいろんなこと書いてあるみたいだよ。

僕もよく、いろいろと助けてもらってるんだ」といった。



「んだよ・・・料理も書いてあるのかよ・・・」



「ふっ・・データは嘘をつかないよ。お前もやって見るか?」



「ジョーダン、俺は、思うままで結構だ」



「俺はラッキーがあるから」



「僕には清純がいるからね」



周の言葉に清純は思い出したかのように「周〜〜」と周を抱きかかえた。



「わっ・・・何?」



「ふふ〜〜ん。何だろうね」と不敵な笑みをしたあと清純は、

『仁の手握って、可愛い顔したオシオキだよん〜』と耳元で小さく囁いた。



「えっ・・・」







「さ、俺達は部屋に行こうか」

「ったく・・・」







翌朝、清純に夜明け近くまで散々鳴かされた周は、起き上がることができず、

千石家の朝食担当は、長男貞治が、ノートにあるレシピにそって

母の味をきっちり再現したのだった・・・・・













夫 千石清純 36歳

妻   周  35歳



今日もラブラブバカ夫婦

そんな一家のとある日でした・・・



























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